もっと精密な素数定理

以前の記事で素数定理を扱いました。これは、 x 以下の素数の個数 \pi(x) に対して

  \displaystyle  \pi(x)\sim \frac{x}{\log x}\ \ …①

が成り立つというものです。

素数定理に気づくために – すうがくブログ

 

なお、上の \displaystyle \sim  という記号は、比が n\to \infty のとき 1 に近づく、すなわち

  \displaystyle  \pi(x)\cdot \frac{\log x}{x} \to 1\ \ (n\to \infty)

を表しています。

 

さて、上の素数定理よりも、もっと”精密な”素数定理が次です。

 

精密な素数定理

ある定数 c\gt 0 があって、

  \displaystyle  \pi(x)=\int_2^{x}\frac{dt}{\log t} +O(x\exp(-c\sqrt{\log x}))\ \  …②

 が成り立つ。

元の素数定理よりも若干複雑にみえますが、より多くの情報を得ることができます。今回はこれを認めて、素数の分布について導ける定理を1つ紹介します。

まず記号 O(f(x))の解説をしておきます。記号 O(f(x)) は、 f(x)で割ったときに有界な関数である、ということを表します。具体的に書こうとすると定数が汚くなること、また具体的に書いたところであまりメリットがないためこのような記号を用います。記号 \displaystyle  O を使わずに②を表現すると次のようになります。

 x に無関係な定数 C があって、

  \displaystyle  \left|\left\{\pi(x)-\int_2^{x}\frac{dt}{\log t}\right\}\cdot \frac{1}{x\exp(-c\sqrt{\log x})}\right|\leqq C

とできる( C は小文字の c とは無関係です)。

 

②は①よりも精密で、より \pi(x) について多くの情報を持っています。まずは次のことを示しましょう。

補題1

 \displaystyle  \int_{2}^{x}\frac{dt}{\log t}= \frac{x}{\log x}+\frac{x}{(\log x)^2}+\frac{2!x}{(\log x)^3}+\cdots +\frac{(n-1)!x}{(\log x)^{n}}+O\left(\frac{x}{(\log x)^{n+1}}\right)

(証明)部分積分により、定数の差を無視して

  \displaystyle  \int_{2}^{x}\frac{dt}{\log t}= \int_{2}^{x}\frac{(t)'}{\log t}dt=\frac{x}{\log x}+\int_{2}^{x}\frac{1}{(\log t)^2}dt

が成立します。繰り返しこれを用いることで、

  \displaystyle  \int_{2}^{x}\frac{dt}{\log t}= \frac{x}{\log x}+\frac{x}{(\log x)^2}+\int_{2}^{x}\frac{2!}{(\log t)^3}dt

       \displaystyle \ = \frac{x}{\log x}+\frac{x}{(\log x)^2}+\frac{x}{(\log x)^3}+\int_{2}^{x}\frac{3!}{(\log t)^4}dt

      \displaystyle \  =\cdots

       \displaystyle \  = \frac{x}{\log x}+\frac{x}{(\log x)^2}+\frac{x}{(\log x)^3}+\cdots +\frac{(n-1)!x}{(\log x)^{n}}+\int_{2}^{x}\frac{n!}{(\log t)^{n+1}}dt

です。最後の項は積分区間を \sqrt{x} で分けて、

  \displaystyle  \int_{2}^{x}\frac{1}{(\log t)^{n+1}}dt=\int_{2}^{\sqrt{x}}\frac{dt}{(\log t)^{n+1}}+\int_{\sqrt{x}}^{x}\frac{dt}{(\log t)^{n+1}}

      \displaystyle  \leqq \frac{1}{(\log 2)^{n+1}}\cdot \sqrt{x} +\frac{1}{(\frac{1}{2}\log x)^{n+1}}\cdot x

 この右辺の二項および部分積分の過程で登場する定数は \displaystyle  \frac{(\log x)^{n+1}}{x} をかけると定数で上からおさえられる。実際、

  \displaystyle  \frac{(\log x)^{n+1}}{x} \cdot \frac{1}{(\log 2)^{n+1}}\cdot \sqrt{x}=\frac{(\log x)^{n+1}}{\sqrt{x}}\cdot \frac{1}{(\log 2)^{n+1}} \to 0 \ \ (n\to \infty) 

  \displaystyle \frac{(\log x)^{n+1}}{x} \cdot \frac{1}{(\frac{1}{2}\log x)^{n+1}}\cdot x  =2^n (定数)

  \displaystyle  \frac{(\log x)^{n+1}}{x} \to 0 \ \ (n\to \infty)

 となる。以上のことから補題1が成立する。(証明終)

 

精密な素数定理②を補題1によって書き換えると

 \displaystyle \pi(x)= \frac{x}{\log x}+\frac{x}{(\log x)^2}+\frac{2!x}{(\log x)^3}+\cdots +\frac{(n-1)!x}{(\log x)^{n}}+O\left(\frac{x}{(\log x)^{n+1}}\right)

となります。 n=1 として両辺に \displaystyle  \frac{\log x}{x} をかけて x\to \infty とすれば素数定理①を得ます。また、 n=2 の場合を利用すると次のことが示されます。

 

素数の分布に関する定理

十分大きい任意の x に対して、区間 (1,x] に含まれる素数の個数の方が、区間 (x,2x] に含まれる素数の個数よりも多い。

(証明)示すべきは、十分大きい任意の x

  \displaystyle  \pi(x)\gt \pi(2x)-\pi(x) すなわち  \displaystyle 2\pi(x)-\pi(2x)\gt 0   

である。補題1で n=2 とした式

  \displaystyle  \left(\frac{x}{\log x}+\frac{x}{(\log x)^2}\right)-\frac{Mx}{(\log x)^3}\leqq \pi(x) \leqq  \left(\frac{x}{\log x}+\frac{x}{(\log x)^2}\right)+\frac{Mx}{(\log x)^3}

を利用する( M は定数)。

 \displaystyle  2\pi(x)-\pi(2x)\geqq \left(\frac{2x}{\log x}+\frac{2x}{(\log x)^2}\right)-\frac{2Mx}{(\log x)^3}-\left\{\left(\frac{2x}{\log 2x}+\frac{2x}{(\log 2x)^2}\right)+\frac{2Mx}{(\log 2x)^3}\right\}

   \displaystyle = \frac{2x}{\log x}\left\{\left(1-\frac{\log x}{\log 2x}\right)+\left(\frac{1}{\log x}-\frac{\log x}{(\log 2x)^2}\right)-M\left(\frac{1}{(\log x)^2}+\frac{\log x}{(\log 2x)^3}\right)\right\}

   \displaystyle  =\frac{2x}{(\log x)^2}\left\{\log 2\cdot \frac{\log x}{\log 2x}+\left(1-\left(\frac{\log x}{\log 2x}\right)^2\right)-M\left(\frac{1}{\log x}+\frac{(\log x)^2}{(\log 2x)^3}\right)\right\} …③

ここで \displaystyle  \frac{\log x}{\log 2x}\to 1 \ \ (n\to \infty)であるから③の \{\ \} 内第1,2項は \to \log 2 \fallingdotseq 0.69 \ (n\to\infty) である。一方第3項は \to 0 であるから、③は十分大きい任意の x に対して正の値をとる。(証明終)

 

なお、上定理は \displaystyle \pi (x) についてもう1段階、甘い評価

  \displaystyle \frac{x}{\log x}-\frac{Mx}{(\log x)^2}\leqq \pi(x) \leqq  \frac{x}{\log x}+\frac{Mx}{(\log x)^2}

を利用しようとすると、③の \{\ \} 内の評価が\to 0-0 となって正であることが示せません。 

 

今回はより精密な素数定理②の紹介とそれを利用した素数分布に関する定理を1つ紹介しました。素数定理②の証明には複素関数であるリーマンゼータ関数 \zeta(s)

  \displaystyle \zeta(s)=\sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n^s}  

の非零領域( \zeta が0にならない範囲)の情報を必要とします。このあたりの話はいろいろと準備が必要であり、また計算もやや難しいのですが、少しずつ道具を揃えて記事にまとめたいと思います。

 

では今回はこの辺で。