素数分布は過疎化する【精密な素数定理から計算】

素数定理\(  \pi(x)\sim\frac{x}{\log x} \)についての記事→素数定理とは

今回は、素数分布についての次の内容を証明してみましょう。

[box class="blue_box" title="素数分布は過疎化する(定理1)"]

十分大きい任意の\(  x \)に対して、区間\(  (1,x] \)に含まれる素数の個数の方が、区間\(  (x,2x] \)に含まれる素数の個数よりも多い。
[/box]

\(  x \)をいろいろ変化させて調べたのが次の表です。以前の素数分布の記事内の計算機を利用しました。

\(  x \) 区間\(  (1,x] \)にある素数の個数 区間\(  (x,2x] \)にある素数の個数
100 25 21
1000 168 135
\(  10^4 \) 1229 1033
\(  10^5 \) 9592 8392

区間\(  (1,2x] \)の"前半"よりも"後半"の方が素数が少ないことがわかりますね。この様子ががずっと続くこと、言い換えれば「素数の分布が過疎化していく」と定理は主張しているのです(正確には定理が主張しているのはある\(  x \)以降についてなのですがそこはおいておきましょう…)

今回の定理の証明には、素数定理を用います。ただ、以前の記事で扱った"普及版"素数定理

[box class="blue_box" title="素数定理①"]

\(  x \)以下の素数の個数\(  \pi(x) \)に対して、

\( \displaystyle  \pi(x)\sim \frac{x}{\log x} \)…①

が成立する。ただし、記号\(  \sim \)は両方の関数の比の極限が1に収束することを表すものとする。

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では今回の定理が示せません。そこで、もう少し強力なバージョンの素数定理②を用いたいと思います。精密化になっていること、すなわち素数定理②から素数定理①が導けることは後で示します。

[box class="blue_box" title="素数定理②"]

定数\(  c>0 \)があって、

\( \displaystyle  \pi(x)\!=\!\int_2^{x}\!\frac{dt}{\log t} \!+\!O(x\exp\left(-c\sqrt{\log x})\right) \)…②

が成り立つ。(\(  c \)は\(  x \)に無関係な定数)

[/box]

ここで、記号\(  O(x\exp(-c\sqrt{\log x}) \)は②の両辺の差の絶対値が\( x\exp(-c\sqrt{\log x})  \)の定数倍で抑えられる、すなわち

\( \displaystyle  \left|\pi(x)\!-\!\int_2^{x}\frac{dt}{\log t} \right|\leq C x\exp(-c\sqrt{\log x})\)

を意味します(\(  C \)は\(  x \)に無関係な定数)。素数定理②の証明には複素関数であるリーマンゼータ関数

\( \displaystyle \zeta(s)=\sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n^s} \)

の非零領域(\( \displaystyle  \zeta \)が0にならない範囲)についての議論を用いるものですが、内容的にも量的にも扱うのが大変です。そこで今回は精密化された素数定理②は認め、そこから「素数分布は過疎化する(定理1)」ことを導きましょう。

ここで準備として、\( \displaystyle \int_{2}^{x}\frac{dt}{\log t} \)の計算をやっておきます。後の議論では\(  n=2 \)までで十分なのですが、一応一般の\(  n \)で計算しておきます。

[box class="blue_box" title="補題"]

次の式が成り立つ。

\( \displaystyle\int_{2}^{x}\!\!\frac{dt}{\log t}\!=\! \frac{0!x}{\log x}\!+\!\frac{1!x}{(\log x)^2}\!+\!\frac{2!x}{(\log x)^3}\!+\!\cdots \)

\( \displaystyle  \hspace{15mm}\cdots+\frac{(n-1)!x}{(\log x)^{n}}\!+\!O\left(\frac{x}{(\log x)^{n+1}}\right) \)
[/box] [box class="glay_box" ]

(証明)部分積分を行う。定数の差を無視して

\( \displaystyle \int_{2}^{x}\frac{dt}{\log t}= \int_{2}^{x}\frac{(t)'}{\log t}dt\)

\( \displaystyle  \ \ =\frac{x}{\log x}+\int_{2}^{x}\frac{1}{(\log t)^2}dt \)

が成立する。繰り返しこれを用いることで、

\( \displaystyle  \int_{2}^{x}\frac{dt}{\log t}= \frac{x}{\log x}+\frac{x}{(\log x)^2}+\int_{2}^{x}\frac{2!}{(\log t)^3}dt \)

\( \displaystyle\ \ \ =\! \frac{x}{\log x}\!+\!\frac{x}{(\log x)^2}\!+\!\frac{2!x}{(\log x)^3}\!+\!\int_{2}^{x}\!\frac{3!}{(\log t)^4}dt \)

\( \displaystyle \ \  =\cdots  \)

\( \displaystyle \  \  = \frac{x}{\log x}+\frac{x}{(\log x)^2}+\frac{2!x}{(\log x)^3}+\cdots \)

\( \displaystyle  \hspace{20mm}\cdots +\frac{(n-1)!x}{(\log x)^{n}}+\int_{2}^{x}\frac{n!}{(\log t)^{n+1}}dt \)

となる。最後の項(を\(  n! \)で割ったもの)は積分区間を\(  \sqrt{x} \)で分けて、

\( \displaystyle  \int_{2}^{x}\!\frac{1}{(\log t)^{n+1}}dt\)

\( \displaystyle  \hspace{10mm}=\!\int_{2}^{\sqrt{x}}\!\!\frac{dt}{(\log t)^{n+1}}\!+\!\int_{\sqrt{x}}^{x}\frac{dt}{(\log t)^{n+1}}   \)

\( \displaystyle \hspace{10mm} \leq \frac{\sqrt{x}}{(\log 2)^{n+1}} +\frac{1}{(\frac{x}{2}\log x)^{n+1}} \)

となる。この最後の2項および部分積分の過程で登場する定数は\( \displaystyle  \frac{(\log x)^{n+1}}{x} \)をかけると\(   x\)に無関係な定数で上からおさえられる。実際、

\( \displaystyle  {\small \frac{(\log x)^{n+1}}{x} \cdot \frac{\sqrt{x}}{(\log 2)^{n+1}}}\)

\( \displaystyle  \hspace{10mm} {\small =\frac{(\log x)^{n+1}}{\sqrt{x}}\cdot \frac{1}{(\log 2)^{n+1}} \to 0 \ \ (n\to \infty)} \)

\( \displaystyle{\small  \frac{(\log x)^{n+1}}{x} \cdot \frac{1}{(\frac{x}{2}\log x)^{n+1}}  =2^n }  \) (定数)

\( \displaystyle  \frac{(\log x)^{n+1}}{x} \to 0 \ \ (n\to \infty)   \)

となる。以上のことから補題が成立する。(証明終)

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精密な素数定理②を補題によって書き換えると

\( \displaystyle \pi(x)= \frac{x}{\log x}+\frac{x}{(\log x)^2}+\frac{2!x}{(\log x)^3}+\cdots \)

\( \displaystyle  \hspace{20mm}\cdots +\frac{(n-1)!x}{(\log x)^{n}}+O\left(\frac{x}{(\log x)^{n+1}}\right) \)

となります。\(  n=1 \)として両辺に\( \displaystyle  \frac{\log  x}{x} \)をかけて\( \displaystyle  x\to \infty \)とすれば素数定理①が導かれますね。

さて、今回は精密な素数定理②で\(  n=2 \)の場合を利用して、冒頭の定理を示してみましょう。

[box class="blue_box" title="素数分布は過疎化する(定理1), 再掲"]

十分大きい任意の\(  x \)に対して、区間\(  (1,x] \)に含まれる素数の個数の方が、区間\(  (x,2x] \)に含まれる素数の個数よりも多い。
[/box] [box class="glay_box" ]

(証明)示すべきは、十分大きい任意の\(  x \)で\( \displaystyle  \pi(x)\!\gt\! \pi(2x)-\pi(x) \) すなわち \(   \displaystyle 2\pi(x)\!-\!\pi(2x)\gt 0\)である。

補題で\(  n=2 \)とした式

\( \displaystyle  \left(\!\frac{x}{\log x}\!+\!\frac{x}{(\log x)^2}\!\right)\!-\!\frac{Mx}{(\log x)^3}\leq \pi(x) \)

\( \displaystyle \hspace{20mm} \leq  \left(\!\frac{x}{\log x}\!+\!\frac{x}{(\log x)^2}\right)\!+\!\frac{Mx}{(\log x)^3}\)

を利用する(\(  M \)は定数)。

\( \displaystyle 2\pi(x)-\pi(2x)\)

\( \displaystyle\hspace{5mm} {\small \geq \left(\frac{2x}{\log x}+\frac{2x}{(\log x)^2}\right)-\frac{2Mx}{(\log x)^3}}\)

\( \displaystyle \hspace{15mm} {\small -\left\{\left(\frac{2x}{\log 2x}+\frac{2x}{(\log 2x)^2}\right)+\frac{2Mx}{(\log 2x)^3}\right\} }\)

\( \displaystyle\hspace{5mm} = {\small \frac{2x}{\log x}\left\{\left(1-\frac{\log x}{\log 2x}\right)+\left(\frac{1}{\log x}-\frac{\log x}{(\log 2x)^2}\right)\right.}\)

\( \displaystyle \hspace{15mm}{\small \left. -M\left(\frac{1}{(\log x)^2}+\frac{\log x}{(\log 2x)^3}\right)\right\} }\)

\( \displaystyle\hspace{5mm} = {\small \frac{2x}{(\log x)^2}\left\{\log 2\cdot \frac{\log x}{\log 2x}+\left(1-\left(\frac{\log x}{\log 2x}\right)^2\right)\right.}\)

\( \displaystyle \hspace{15mm}{\small \left. -M\left(\frac{1}{\log x}+\left(\frac{\log x}{\log 2x}\right)^2\!\cdot \frac{1}{\log 2x}\right)\right\} }\)…③

ここで\( \displaystyle  \frac{\log x}{\log 2x}\to 1 \ \ (x\to \infty) \)であるから③の\(  \{\ \} \)内は\(   \to \log 2 = 0.69>0 \ (x\to\infty) \)である。よって③は十分大きい任意の\( \displaystyle x  \)に対して正の値をとる。(証明終)

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なお、上定理は\(  \pi(x) \)についてもうすこし甘めの評価、すなわち②で\( \displaystyle  n=1 \)とした

\( \displaystyle  \frac{x}{\log x}-\frac{Mx}{(\log x)^2}\leq \pi(x) \leq  \frac{x}{\log x}+\frac{Mx}{(\log x)^2}  \)

で証明しようとすると、③の\(  \{\ \} \)内の評価が\(  \to 0-0=0 \)となって正であることが示せません。\(  n=1 \)では"普及版"素数定理ほどの情報がなく、今回の定理の証明には不十分ということなのです。

今回はより精密な素数定理②の紹介とそれを利用した素数分布に関する定理の紹介でした。では。

(参考)

松本耕二『リーマンのゼータ関数』

 

-大学数学-微分積分(解析学)

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