今回の内容の動画版→投資の世界で有名な「72の法則」を数学的に解説
資産運用などの話で「72の法則」というのを聞いたことがあるでしょうか。
72の法則とは、複利計算によって元の2倍金額となるのにかかる年数\( N \)(年)と年利\( r \)(%)の間に
\( \ \ \ \displaystyle rN=72 \)
が成り立つというものです。この関係を使うと、資産が2倍になるまでに必要な年数を簡易的に計算することができます。
(例1)年利が\( r \)=3%ならば元金が2倍になるのは
\( \ \ \ \displaystyle N=\frac{72}{3}=24 \)年後
と計算できます。
(例2)年利ではなく先に年数を\( N \)=10年と決めてもよいです。すなわち「10年で2倍にするにはいくらの年利が必要か?」という計算は
\(\ \ \ \displaystyle r=\frac{72}{10}=7.2 \)%
とできます。
実際に複利で利息がつく様子を見るためには、電卓を叩くとよいでしょう。電卓で1.03と入れて×を2回押した後に=をどんどん押すと2乗、3乗…の計算ができます。先ほどの(例1)の場合は
1年経過後:\( \displaystyle 10\times (1+0.03)=10.3 \)
2年経過後:\( \displaystyle 10\times (1+0.03)^2=10.609 \)
3年経過後:\( \displaystyle 10\times (1+0.03)^3=10.9272 \)
\( \displaystyle \vdots \)
23年経過後:\( \displaystyle 10\times (1+0.03)^{23}=19.7358 \)
24年経過後:\( \displaystyle 10\times (1+0.03)^{24}=20.3279 \)
…という具合に先ほどの計算どおり年利が\( r \)=3 %のときは\( N \)=24年で約2倍の20万3279円になっていることがわかります。また(例2)についても
1年経過後: \( \displaystyle 10\times (1+0.072)=10.72 \)
2年経過後: \( \displaystyle 10\times (1+0.072)^2=11.4918 \)
3年経過後: \( \displaystyle 10\times (1+0.072)^3=12.3192 \)
\( \vdots \)
9年経過後: \( \displaystyle 10\times (1+0.072)^9=18.6961 \)
10年経過後: \( \displaystyle 10\times (1+0.072)^{10}=20.0423 \)
金利\( r \)=7.2パーセントのときに\( N \)=10年で約2倍の20万0423円となっています。
ではこの72の法則を導いてみましょう。今回は計算の中で近似している部分が多いので(証明)ではなく(導出)としています。
[box class="blue_box" title="72の法則"]年利\( r \)%が一定のとき、元金が2倍になるまでの年数を\( N \)とすると、ほぼ
\( \displaystyle rN=72 \)
が成立する。
[/box] [box class="glay_box" ](導出)簡単のため、年利は%でなく、いったん小数で表しておくことにする(3%なら\( r=0.03 \)とする)。
元金\( A \)、年利\( r \)のとき\( N \)年経過後に元金が2倍になったとすると、
\(\ \ \ \displaystyle 2A=A(1+r)^N \)
が成立する。両辺を\( A \)で割り、対数を取れば
\( \ \ \ \displaystyle \log 2 =N\log(1+r) \) …①
ここで右辺の\( \log \)のマクローリン展開を思い出す(そんなの覚えてないよ!って思わなくても大丈夫。次のように導けばよい)。\( -1<r<1 \)のとき、次の無限等比級数の式
\(\ \ \ \displaystyle \frac{1}{1+r}=1-r+r^2-r^3+r^4-\cdots \)
で両辺を\( x \)で積分すれば
\( \ \ \ \displaystyle \log(1+r)=r-\frac12r^2+\frac13r^3-\frac14r^4+\cdots \)
となる。よって\( \log(1+r) \)は
\(\ \ \ \displaystyle r-\frac{r^2}{2}\lt \log(1+r)\lt r \)…②
と評価できる。②の両辺に\( N \)をかけて式①を使うと
\(\ \ \ \displaystyle Nr-\frac{N}{2}r^2\lt \log2 \lt Nr \)
すなわち
\(\ \ \ \displaystyle \log2\lt Nr \lt \log2+\frac{N}{2}r^2 \)…③
を得る(目標の\( Nr \)が登場した!)。ここでもう少し厳しく評価を行うため、③の中辺と右辺との評価を再び使って
\(\ \ \ \displaystyle Nr\lt \log2+\frac{Nr}{2}r \lt \log2 +\frac{\log2}{2}r+\frac{N}{4}r^3 \) …④
を得る。
さて、④の右辺を実用上考えられる数値で評価しよう。資産運用の話であるから長くても\( N \)は50年程度、また年利も高々10%程度としてよいだろう(年利が10%以上になる投資はかなりリスクが高い)。ということで④の右辺を\( N-50, r=0.1 \)として評価し、これに③の左辺と中辺の評価を合わせ、さらに\( \log 2=0.6931 \)を使うと
\(\ \displaystyle 0.6931\lt Nr \!\lt\! 0.6931\!+\!\frac{0.6931}{2}\!\times\! 0.1\!+\!\frac{50}{4}\!\times\! (0.1)^3=0.7402 \)
となる(上式は横スクロールします)。\( r \)を%で表示すれば
\( \ \ \ \displaystyle 69.31\lt Nr \lt 74.02 \)
を得る。この間の数字なら何でもよいのであるが、区間の真ん中にも近いし、また約数が多いという実用上の理由も考慮して\( Nr=72 \)を採用することにすれば都合がよいだろう。(導出終)
[/box]では、今回はこの辺で。
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