イプシロンエヌ論法に関する導入はこちらの記事をどうぞ→大学数学のε-N論法がありがたく思える例【イプシロン-エヌ論法】
数列\( \{a_n\} \)が\( \alpha \)へ収束する定義は次の通りでした。
[box class="blue_box" title="数列の収束の定義"]任意の\( \varepsilon >0 \)に対し、ある番号\( N \)があって、\( n>N \)となるすべての\( n \)で
\( \displaystyle |a_n-\alpha|\lt \varepsilon \)
となる。
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上の定義は極限値\( \alpha \)が前面に出ていますが、次のコーシーの収束条件定理では極限値\( \alpha \)の姿を表に出すことなく、収束条件を与えています。収束するかどうかが知りたいだけの場合にはこちらのほうが役に立つことも多いのです。
[box class="blue_box" title="コーシーの収束条件定理"]数列\( \{a_n\} \)が収束するための必要十分条件は以下の(条件C)が成り立つことである。
(条件C) 任意の\( \varepsilon >0 \)に対し、ある番号\( N \)があって、\( m,n>N \)となるすべての番号\( m,n \)で
\( \displaystyle |a_n-a_m|\lt \varepsilon \)
が成り立つ(この条件を満たす数列をコーシー列という)。
[/box]
では、証明をやってみましょう。なお、「上に有界で単調に増加する数列は収束する」という主張を仮定します。
[box class="glay_box" ](証明)
数列がある値\( \alpha \)へ収束するとき、その数列がコーシー列であることは次のようにすぐわかる。
任意の\( \displaystyle \varepsilon \gt 0 \)を一つ固定する。数列\( \{a_n\}_{n\in N} \)が収束するとすれば、ある番号\( N \)があって、任意の\( n>N\)となる\( n \)で
\( \displaystyle |a_n-\alpha|\lt \frac{\varepsilon}{2} \)
となっている。よって任意の\( \displaystyle m,n>N \)に対して
\( \displaystyle |a_m-a_{n}|\leq |a_m-\alpha|+|a_n-\alpha|\leq \varepsilon \)
が成立するので、収束数列\( \displaystyle \{a_n\} \)はコーシー列である。
次に、数列\( \{a_n\} \)をコーシー列と仮定して、これが収束することを次の3つのステップに分けて示そう。
(ステップ1)「有界実数列は収束部分列をもつこと」を示す(これ自体ボルツァーノ・ワイヤストラスの定理とも言われる)
(ステップ2)「コーシー列は有界であること」を示す
(ステップ3)「コーシー列のある部分列\( (a_{n(k)})_{k\in N} \)が\( \alpha \)に収束するならば元のコーシー列も\( \alpha \)に収束すること」を示す
ではまず(ステップ1)「有界実数列は収束部分列をもつこと」を示そう。
有界実数列\( \{a_n\} \)は\( M \)を十分大きくとると任意の番号\( n \)で
\( |a_n|\leq M \)
とできる。区間\( I_1=[-M,M] \)について、\( I_1 \)の右半分と左半分のうち、\( \{a_n\} \)が無数にあるほうを\( I_2 \)とする(数列の項は無限にあるから、両方に有限個だということはあり得ない)。さらに\( I_2 \)の右半分と左半分を考え、\( \{a_n\} \)が無数にある方を\( I_3 \)とする。以下同様に\( I_4, I_5\cdots \)を定める。\( I_n=[b_n,c_n] \)とおくと、
\( \displaystyle c_n-b_n=\left(\frac{1}{2}\right)^{n-1}\cdot 2M \)
により区間の幅\( \displaystyle c_n-b_n \)は\( \displaystyle n\to\infty \)のとき\( \to 0 \)となる。
区間の定め方から、任意の\( n \)に対し、うまく番号\( k(n) \)を定めて
\( \displaystyle a_{k(n)}\in I_n , \ k(1)\lt k(2) \lt k(3) \lt\cdots\)
と部分列\( \displaystyle \{a_{n(k)}\}_{k\in N} \)を作ることができる。\( a_{k(n)}\in I_n=[b_n,c_n] \)により
\( \displaystyle b_n\leq a_{k(n)}\leq c_n \) …①
である。ここで、数列\( \{b_n\} \)は上に有界な単調増加数列、\( \{c_n\} \)は下に有界な単調減少数列であるから、それぞれ収束する。また\( c_n-b_n\to0 (n\to\infty) \)により極限値は等しい。その極限値を\( \alpha \)とすると、①にはさみうちの原理を適用して
\( \displaystyle a_{k(n)}\to \alpha (n\to \infty)\)
となる。よって、部分列\( \{a_{n(k)}\}_{k\in N} \)が収束することがわかった。このように有界数列から収束部分列を構成することができるので(ステップ1)が示された。
続いて(ステップ2)「コーシー列は有界であること」を示そう。
コーシー列の仮定により、ある番号\( N \)があって、任意の\( n>N \)に対して
\( \displaystyle |a_n-a_N|\lt 1 \) すなわち \( \displaystyle |a_n|\lt |a_N|+1 \)
とできる。よって\( \displaystyle M=\max\{|a_1|, |a_2|, \cdots , |a_{N-1}|, |a_N|+1\} \)とおくと、任意の\( \displaystyle n>N \)で\( |a_n| \leq M \)が成立する。これでコーシー列が有界であること(ステップ2)が示された。
最後に(ステップ3)「コーシー列のある部分列\( (a_{n(k)})_{k\in N} \)が\( \alpha \)に収束するならば元のコーシー列も\( \alpha \)に収束すること」を示そう。
\( \varepsilon \gt 0 \)を一つ固定する。\( a_{n} \)がコーシー列であることから、ある番号\( N_1 \)があって、\( n, n(k)\gt N_1 \)を満たす任意の\( n.k \)に対して
\( \displaystyle |a_n-a_{n(k)}|\lt \frac{\varepsilon}{2} \)
が成立する。また、ステップ3の仮定によりある番号\( N_2 \)があって、\( k\gt N_2\)となる任意の\( k \)に対して
\( \displaystyle |a_{n(k)}-\alpha|\lt \frac{\varepsilon}{2} \)
が成立する。よって\( N=\max\{N_1, N_2\} \)とおくと、\( n.k>N \)を満たす任意の\( n,k \)で
\( \displaystyle |a_n-\alpha|\leq |a_{n}-a_{n(k)}|+|a_{n(k)}-\alpha|\lt \varepsilon \)
が成立する。すなわち、コーシー列が\( \alpha \)に収束する部分列\( \{a_{n(k)}\}_{k\in N} \)をもつとき、元のコーシー列\( \displaystyle \{a_n\} \)も\( \alpha \)に収束すること(ステップ3)が示された。
(ステップ1)〜(ステップ3)で示したことから、任意のコーシー列が収束することが導ける。実際、
(ステップ2)によりコーシー列は有界である。
→(ステップ1)の仮定が満たされるので、コーシー列は収束する部分列をもつ。
→(ステップ3)の仮定が満たされるので、元のコーシー列も収束する。
とすればよい。(証明終)
[/box]いい練習になりましたー。
今回はこの辺で。
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今回の内容を分割した動画群です。