3回に渡って複素解析を使ってみる記事を書いてみます。複素数が活躍する姿を感じてもらえれば幸いです。
今回の内容の動画版(扱う例が少し異なっていますが)→複素積分
線積分の定義
複素関数については次の「線積分」という道具で積分計算を行います。
[box class="blue_box" title="複素積分"]複素数平面上の領域\( D \)内の区分的に滑らかな曲線
\( \ \ C: z=\zeta(t) \ (a\leq t\leq b) \)
に沿う積分を
\( \displaystyle \ \ \int_{C}f(z)dz =\int_{a}^{b}f(\zeta(t))\zeta'(t)dt\)
と定義する。
[/box]上の定義は区間\( [a,b] \)の分割
\( \ \ \ a=a_0<a_1<\cdots <a_{n-1}<a_n=b \)
に対する総和\( t_j\in [a_{j-1},a_j]\ ; j=1,2,\cdots , n \)
\( \ \ \displaystyle \small \sum_{j=1}^{n}f(\zeta(t_j))(\zeta(a_j)-\zeta(a_{j-1})) \)
\( \hspace{10mm}=\sum_{j=1}^{n}f(\zeta(t_{j}))\frac{\zeta(a_{j})-\zeta(a_{j-1})}{a_{j}-a_{j-1}}(a_{j}-a_{j-1}) \)
の分割を細かくした極限と考えられます。こちらの書き方の方が意味が分かりやすいでしょう。複素平面上の経路\( C \)からポツポツとポイントを\( \zeta(a_1), \zeta(a_2), \cdots \zeta(a_n) \)選んでそれらのポイント間での複素関数値\( f(\zeta(t_j)) \)にポイントの"差分"\( \zeta(a_j)-\zeta(a_{j-1}) \)をかけているわけで、リーマン積分の発想と似ていますね。
さて、複素積分の計算例を2つほど示します。
(例1)関数\( \displaystyle f(z)=\frac{1}{z} \) において、原点中心で半径1の円の円周を反時計回り(すなわち、正の向き)に移動する経路\( \ \ C: z=e^{ti}\ (0\leq t \leq 2\pi) \)上の線積分は
\( \displaystyle \int_{C}f(z)dz=\int_{0}^{2\pi}\frac{1}{e^{ti}}\cdot ie^{ti}dt \)
\( \displaystyle \ \ \ =\int_{0}^{2\pi}idt=2\pi i \)
となります。
(例2)関数\( f(z)=z^2 \)において、例1と同様の経路での積分は
\( \displaystyle \int_{C}f(z)dz=\int_{0}^{2\pi}e^{2ti}\cdot ie^{it}dt=\int_{0}^{\infty}ie^{3ti}dt \)
\( \displaystyle =\left[\frac{ie^{3ti}}{3i}\right]_{0}^{2\pi}=\frac13(1-1)=0 \)
となります。
コーシーの積分定理の紹介
実数関数に対する微分可能を複素関数へ拡張した概念が「正則」です。要するに複素関数の意味で微分可能な関数を正則というのです。ここで本来であれば実関数の微分可能との違いや正則の判定法についても述べるべきですが、今回の主題からずいぶんと外れてしまうので、別の機会にきちんと扱いたいと思います(今回記事内に登場する関数に関しては分母が\( 0 \)になる箇所以外では正則であるとお考えください)。
実は、考えている領域で複素関数が正則であり、かつ線積分の経路が閉じている(スタートとゴールが同じ)場合には線積分の値がつねに\( 0 \)となることが知られています。この定理をコーシーの積分定理といいます。上の(例2)はその例の一つだったのです。
[box class="blue_box" title="コーシーの積分定理"]\( \displaystyle f(z)\) が領域\( \displaystyle D \)とその境界\( \displaystyle C \)を含む領域で正則ならば
\(\displaystyle \ \ \int_{C}f(z)dz=0 \)
が成り立つ。 [/box]
今回の記事シリーズでは証明はパスします(興味がある方は以下の動画からご覧ください)。
次回はローラン展開や留数定理について扱っていきます。今回はここまでです。
[kanren postid="1051"]★★★
今回の内容の動画版はこちら
コーシーの積分定理の証明はこちら