ローラン展開と留数定理【複素解析2/3】

今回の内容の動画版です→ローラン展開と留数定理

前回の記事はこちら(まだの方はこちらから読んだ方が良いです)→複素解析を使ってみる(1回目/全3回)

ローラン展開と留数

テイラー展開の拡張版とも言える、ローラン展開を紹介します。

ローラン展開

領域\(  \{z|0<|z-c|<r\} \)で正則な関数\(  f(z) \)は、その領域で収束する級数

\( \displaystyle  \sum_{n=-\infty}^{\infty}a_n(z-c)^n=\sum_{n=1}^{\infty}\frac{a_{-n}}{(z-c)^n}+\sum_{n=0}^{\infty}(z-c)^n \)…①

に展開される。これをローラン展開という。

上のように展開されることは認めて、展開されたときの各項について、\(  z=c \)周りでの線積分がどんな値になるのかを計算してみましょう。

 

\(  (z-c)^n \)の\(  c \)の近くを小さく正の向きに1周する経路\(  C:z=c+\varepsilon e^{it}, (0\leq t\leq 2\pi) \)での線積分は\(n \not=-1  \)のとき

\( \displaystyle \int_{C}(z-c)^n dz=\int_{0}^{2\pi}e^{nt i}\cdot i e^{it}dt =\int_{0}^{2\pi}e^{i(n+1)t}dt \)

\( \displaystyle \ \  =\left[\frac{e^{2\pi(n+1)i}}{i(n+1)}\right]_{0}^{2\pi}=\frac{e^{2\pi (n+1)i}-e^0}{i(n+1)}=0 \)

であり、また\(  n\not= -1 \)のとき

\( \displaystyle \int_{C}\frac{1}{z-c}dz=2\pi i \)(前回記事の例1と同様の計算)

となることを踏まえると、上のローラン展開①に\(  c \)周りの線積分\(  \int_{C} \)をひっかけて計算して生き残るのは\(   n=-1\)の項だけということになります。この\(  a_{-1} \)を留数といい、\( \displaystyle  Res(f;c) \)とかきます。

すなわち、次のことが成り立ちます。

留数だけが残る

領域\(  \{z|0<|z-c|<r\} \)で正則な関数\(  f(z) \)について、\(  z=c \)を正の向きにすすむ経路\(  C \)上での線積分は

\( \displaystyle \int_{C}f(z)dz= 2\pi i \cdot \)(ローラン展開での\(   a_{-1}\)の項)\(=2\pi i Res (f;c) \)…②

ここで、留数を簡単に計算する方法についても述べておきます。

ローラン展開①が\(  n=-1 \)から始まるとき、すなわち

\( \displaystyle f(z)=\frac{a_{-1}}{z-c}+a_0+a_1(z-c)+a_2(z-c)^2+\cdots \)

となる場合は\( f\)は\(  z=c \)で1位の極をもつ、といいます。1位の極を持つ場合、ローラン展開の式の形から、留数\(  Res(f;c) \)、すなわち①の\(  a_{-1} \)の項は次のように比較的簡単に求められることがわかります。

1位の極での留数の求め方

\( \displaystyle Res(f,c)(=a_{-1})=\lim_{z\to c}(z-c)f(z) \)

(同様に2位以上の極も定義でき、微分を何回か使えば留数を求めることができますが今回はスルーします)

ローラン展開①が\(  n=-1 \)から始まるというのは言い換えれば\(  f(z) \)に\(  (z-c) \)を一回かければ正則(微分可能)になるということで、式の形を見ればすぐにわかる場合が多いです。

例えば、関数\( \displaystyle  f(z)=\frac{1}{z^2+1} \)は分母が\( 0 \) になる点\(  z=\pm i \)以外では正則です。正則でない点、例えば\(  z=i \)については、\(  z-i \)をかけることで

\( \displaystyle (z-i)f(z)=\frac{(z-i)}{z^2+1}=\frac{1}{z+i} \)

となり、\(  z=i \)の周辺で正則になりますから、一位の極を持つことになります。留数は

\( \displaystyle Res(f,i)=\lim_{z\to i}(z-i)f(z)=\frac{1}{i+i}=\frac{1}{2i} \)

と求まります。次回はこの留数の計算を応用して実積分の計算をやってみましょう。

留数定理の実積分への応用【複素解析3/3】

2019.04.23

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今回の内容の動画版です。