複素解析の威力〜実関数の積分を複素積分で計算してみる〜

複素数を導入するメリットの一つとして、難しい計算を統一的な手法で遂行できることが挙げられます。今回は積分への応用をテーマにみていきます。

あんまり一般的な書き方をしても頭に残りにくいので、次の積分

\(\ \   \displaystyle \int_{\infty}^{\infty}\frac{1}{1+x^2}dx \)

を求めることを目標にしましょう。

なお、この積分は原始関数がアークタンジェント(arctan)であるということを使えば

\( \displaystyle  \small \int_{-\infty}^{\infty}\frac{1}{1+x^2}dx=\left[\arctan x \right]_{\infty}^{\infty}=\frac{\pi}{2}-\left(-\frac{\pi}{2}\right)=\pi  \)

ということで計算が完了します。その知識がなくても高校数学のお作法にしたがって\(  x=\tan\theta \)とおくと\(  \frac{dx}{d\theta}=\frac{1}{\cos^2\theta} \),変数の対応が\(  x:-\infty\to\infty \)が\(  \theta : -\frac{\pi}{2}\to \frac{\pi}{2} \)となっていることから

\( \displaystyle  \int_{-\infty}^{\infty}\frac{1}{1+x^2}dx \)

\( \hspace{10mm}=\int_{-\frac{\pi}{2}}^{\frac{\pi}{2}}\frac{1}{1+\tan^2\theta}\cdot \frac{1}{\cos^2\theta}d\theta \)

\(  \hspace{10mm}=\left[\theta\right]_{-\frac{\pi}{2}}^{\frac{\pi}{2}}=\pi  \)

と求められます。

今回はこの結果を複素関数論の諸定理を使って確認してみようということです。大学数学の話ですが複素数の魅力の一つとしてご覧いただければと思います…

ちょっと長くなるので、必要な道具を目次としてまとめておきます。線積分の定義、コーシーの積分定理、留数の話をしてから上の積分を実際に計算します。

 線積分の定義

複素関数については次の「線積分」という道具で積分計算を行います。

複素積分

複素数平面上の領域\(  D \)内の区分的に滑らかな曲線

\( \ \  C: z=\zeta(t) \ (a\leq t\leq b) \)

に沿う積分を

\( \displaystyle \ \  \int_{C}f(z)dz =\int_{a}^{b}f(\zeta(t))\zeta'(t)dt\)

と定義する。

上の定義は区間\(  [a,b] \)の分割

\(  \ \ \ a=a_0<a_1<\cdots <a_{n-1}<a_n=b \)

に対する総和\(  t_j\in [a_{j-1},a_j]\ ; j=1,2,\cdots , n \)

\( \ \ \displaystyle \small \sum_{j=1}^{n}f(\zeta(t_j))(\zeta(a_j)-\zeta(a_{j-1})) \)

\(  \hspace{10mm}=\sum_{j=1}^{n}f(\zeta(t_{j}))\frac{\zeta(a_{j})-\zeta(a_{j-1})}{a_{j}-a_{j-1}}(a_{j}-a_{j-1})  \)

の分割を細かくした極限と考えられます。こちらの書き方の方が意味が分かりやすいでしょう。複素平面上の経路\(  C \)からポツポツとポイントを\(  \zeta(a_1), \zeta(a_2), \cdots \zeta(a_n) \)選んでそれらのポイント間での複素関数値\(  f(\zeta(t_j)) \)にポイントの”差分”\(  \zeta(a_j)-\zeta(a_{j-1}) \)をかけているわけで、リーマン積分の発想と似ていますね。

さて、複素積分の計算例を2つほど示します。

(例1)関数\(  \displaystyle f(z)=\frac{1}{z} \) において、原点中心で半径1の円の円周を反時計回り(すなわち、正の向き)に移動する経路

\(  \ \ C: z=e^{ti}\ (0\leq t \leq 2\pi) \)

上の線積分は

\( \displaystyle  \int_{C}f(z)dz=\int_{0}^{2\pi}\frac{1}{e^{ti}}\cdot ie^{ti}dt \)

\( \displaystyle \hspace{10mm}=\int_{0}^{2\pi}idt=2\pi i \)

となります。

(例2)関数\(  f(z)=z^2 \)において、例1と同様の経路での積分は

\(  \int_{C}f(z)dz=\int_{0}^{2\pi}e^{2ti}\cdot ie^{it}dt=\int_{0}^{\infty}ie^{3ti}dt \)

\(  =\left[\frac{ie^{3ti}}{3i}\right]_{0}^{2\pi}=\frac13(1-1)=0 \)

\displaystyle \int_{C}f(z)dz=\int_{0}^{2\pi} e^{2ti}\cdot ie^{it}dt=\int_{0}^{\infty}ie^{3ti}dt \displaystyle =\left[\frac{ie^{3ti}}{3i}\right]_{0}^{2\pi}=\frac{1}{3}(1-1)=0

となります。

コーシーの積分定理

実数関数に対する微分可能を複素関数へ拡張した概念が”正則”です。要するに複素関数の意味で微分可能な関数を正則というのです。ここで本来であれば実関数の微分可能との違いや正則の判定法についても述べるべきですが、今回の主題からずいぶんと外れてしまうので、別の機会にきちんと扱いたいと思います(今回記事内に登場する関数に関しては分母が0 になる箇所以外では正則であるとお考えください)。

実は、考えている領域で複素関数が正則であり、かつ線積分の経路が閉じている(スタートとゴールが同じ)場合には線積分の値がつねに 0となることが知られています。この定理をコーシーの積分定理といいます。上の(例2)が例の一つです。

今回は証明はパスしますがいつか別記事でやりたいと思います。

コーシーの積分定理

\displaystyle f(z) が領域\displaystyle  Dとその境界\displaystyle C を含む領域で正則ならば

\displaystyle \int_{C}f(z)dz=0

が成り立つ。

ローラン展開と留数

続いて、テイラー展開の拡張版とも言える、ローラン展開を紹介します。

ローラン展開

\displaystyle \{0\lt |z-c|\lt r\} で正則な関数f(z) は、\{0\lt |z-c|\lt r\} で収束する級数

\displaystyle \sum_{n=-\infty}^{\infty}a_n(z-c)^n =\sum_{n=1}^{\infty}\frac{a_{-n}}{(z-c)^n}+\sum_{n=0}^{\infty}(z-c)^n ……①

に展開される。これをローラン展開という。

(z-c)^n c の近くを小さく正の向きに1周する経路 C : z=c+\varepsilon e^{it}, (0\leqq t \leqq 2\pi)での線積分は(n\neq -1) のとき

\displaystyle\int_{C}(z-c)^n dz=\int_{0}^{2\pi}e^{nt i}\cdot i e^{it}dt =\int_{0}^{2\pi}e^{i(n+1)t}dt \displaystyle  =\left[\frac{e^{2\pi(n+1)i}}{i(n+1)}\right]_{0}^{2\pi}=\frac{e^{2\pi (n+1)i}-e^0}{i(n+1)}=0

であり、また\displaystyle n\neq -1 のとき

\displaystyle \int_{C}\frac{1}{z-c}dz=2\pi i (例1と同様の計算)

となることを踏まえると、上のローラン展開①に\displaystyle c 周りの線積分\int_{C} をひっかけて計算して生き残るのはn= -1の項だけということになります。このa_{-1} を留数といい、\displaystyle Res(f;c)とかきます。

すなわち、次のことが成り立ちます。

留数だけが残る

\displaystyle \{0\lt |z-c|\lt r\} で正則な関数f(z) について、z=c を正の向きにすすむ経路 C上での線積分は

\displaystyle \int_{C}f(z)dz= 2\pi i \cdot (ローラン展開でのa_{-1} の項) \displaystyle =2\pi iRes(f;c) …②

ローラン展開①がn=-1から始まるとき、すなわち

\displaystyle f(z)=\frac{a_{-1}}{z-c}+a_0+a_1(z-c)+a_2(z-c)^2+\cdots

となる場合はf z=c で1位の極をもつ、といいます。1位の極を持つ場合、ローラン展開の式の形から、留数Res(f,c) 、すなわち①の\displaystyle a_{-1} の項は次のように比較的簡単に求められることがわかります。

1位の極での留数の求め方
\displaystyle Res(f,c)(=a_{-1})=\lim_{z\to c}(z-c)f(z)

(同様に2位以上の極も定義でき、微分を何回か使えば留数を求めることができますが今回はスルーします)

ローラン展開①が\displaystyle n=-1 から始まるというのは要するに\displaystyle f(z) \displaystyle (z-c) を一回かければ正則(微分可能)になるということで大抵の場合は式の形を見ればわかります。

今回の目標の積分の被積分関数を複素関数に格上げした関数\displaystyle f(z)=\frac{1}{z^2+1} は分母が0 になる点\displaystyle z=\pm i以外では正則です。正則でない点、例えばz=i については、\displaystyle z-i をかけることで

\displaystyle (z-i)f(z)=\frac{(z-i)}{z^2+1}=\frac{1}{z+i}

となり、z=i の周辺で正則になりますから、一位の極を持つことになります。留数は

\displaystyle Res(f,i)=\lim_{z\to i}(z-i)f(z)=\frac{1}{i+i}=\frac{1}{2i}

と求まります。

実関数の積分を複素数を利用して計算する

では一通り準備が終わったので、目標の積分を複素積分を利用して求めます。

問1

\displaystyle \int_{-\infty}^{\infty}\frac{1}{1+x^2}dx=\pi

を示せ。

(解)

複素関数\displaystyle f(z)=\frac{1}{1+z^2} \displaystyle z=i,-i で1位の極をもち、それ以外では正則である。次のように積分路を設定する。

 :20180705185932j:plain

なお、図ではすこし離して書いてあるが、\displaystyle C_2 \displaystyle C_4 は虚軸上を走っているものとし、\displaystyle C_3 の半径は1より小さい(例えば\displaystyle \frac12 )とする。

領域の内部で\displaystyle f(z) は正則なので、コーシーの積分定理により

\displaystyle \int_{C_1+C_2+\cdots +C_6 }f(z)dz=0 ……③

が成り立つ。目標の積分は\displaystyle\lim_{R\to\infty}\int_{C_1+C_5}f(z)dz であることに注意しよう。

③を変形すると

\displaystyle \int_{C_1+C_5 }f(z)dz=\int_{-C_3}f(z)dz-\int_{C_6}f(z)dz  …④

となる(\displaystyle C_2 \displaystyle C_4 は同じ経路をそれぞれ逆に走る線積分であるから打ち消しあって消えることに注意)。ただし\displaystyle -C_3 \displaystyle C_3 を逆に移動するもの(すなわち正の向きに回転する経路)を表すものとする。

④の右辺第一項については\displaystyle f(z) \displaystyle z=i で1位の極であることから簡単に留数が計算できて(すでに行なった計算だがもう一度かく)

\displaystyle \int_{-C_3}f(z)dz=2\pi i Res(f,i)

\displaystyle =2\pi i \lim_{z\to i}(z-i)\frac{1}{z^2+1}=\lim_{z\to i}\frac{2\pi i}{z+i}=\pi …⑤

となる。

また、④の右辺第二項についてはR\to 0 のとき\displaystyle \to 0 となる。実際、経路を\displaystyle C_6 : z=Re^{it} (0\leqq t \leqq \pi) とおいて、

\displaystyle \left|\int_{C_6}f(z)dz\right|=\left|\int_{0}^{\pi}\frac{1}{1+R^2e^{2ti}}\cdot Rie^{ti}dt\right|

\displaystyle \leqq\frac{\pi R}{R^2-1}\to 0 \ (R\to \infty) ……⑥

ここで、\displaystyle |Rie^{it}|=R \displaystyle |1+R^2e^{2ti}|= |R^2e^{2ti}-(-1)|\geqq R^2-1 と評価している。

よって、④〜⑥により、

\displaystyle  \lim_{R\to\infty}\int_{C_1+C_5}f(z)dz=\pi

が成り立つ。この左辺は\displaystyle \int_{-\infty}^{\infty}\frac{1}{1+x^2}dx を表すからこれで目標の式が示された。(終)

もっといろいろな実関数の積分を留数計算で求めたい!です。

では。